HPVワクチン(子宮頸がんワクチン)の積極的勧奨が再開されました
2022年4月から定期接種の積極的勧奨が再開された「HPVワクチン(子宮頸がんワクチン)」について、わかりやすく解説します。
- 「子宮頸がん」とは? 若い世代の女性の罹患が増えている“がん”
- 「HPV」とは? 粘膜に感染し一部ががんの原因になるウイルス
- 「HPVワクチン」とは? HPVの感染を防ぐワクチン
- HPVワクチン接種の効果と対象年齢は?
- HPVワクチンの積極的勧奨が再開された経緯について
- サーバリックス(2価)/HPV16型、18型
- ガーダシル(4価)/HPV16型、18型に加え尖圭コンジローマなどの原因となる6型、11型
- シルガード(9価)/HPV16型、18型、6型、11型に加え31型・33型・45型・52型・58型
「子宮頸がん」とは? 若い世代の女性の罹患が増えている“がん”
子宮頸がん(しきゅうけいがん)とは、女性の子宮の「頸部」という、子宮の出口に近い部分にできるがんのことです。
日本では毎年およそ1万1000人の女性が子宮頸がんを発症し、毎年およそ2900人が命を落としています。
子宮頸がんと診断される人の数は20歳代から増え始めて40歳代でピークを迎え、30歳代までにがんの治療で子宮を失ってしまう人も年間およそ1000人いると報告されています。
「HPV」とは? 粘膜に感染し一部ががんの原因になるウイルス
「HPV(ヒトパピローマウイルス)」は、子宮頸がんのおもな原因となっているウイルスです。
子宮頸がんにかかるしくみは長らく不明でしたが、今から40年前の1982年、ドイツのハラルド・ツァ・ハウゼン博士によって、子宮頸がんのほとんどがHPVというウイルスの感染から生じることが発見されました(博士はこの功績により2008年ノーベル医学生理学賞を受賞しています)。
HPVは皮膚や粘膜に感染するウイルスで、一度でも性的接触の経験があれば誰でも感染する可能性があります。
感染しても多くの場合、ウイルスは自然に消えるといわれていますが、自然に排除されなかった場合、その一部が「異形成」という前がん病変を経て子宮頸がんへと進行してしまうことがあるとされています。
HPVには200種類以上の型があり、そのうち少なくとも15種類が子宮頸がんの患者から検出されています。またHPVは子宮頸がんだけでなく中咽頭がん、肛門がん、膣がん、外陰がん、陰茎がんにも関係があることがわかっています。
「HPVワクチン」とは? HPVの感染を防ぐワクチン
HPVの多くの型のなかでもっとも子宮頸がんにつながりやすく、子宮頸がんの原因の約50〜70%を占めているのが「HPV16型」と「HPV18型」です。
現在、国内で承認されているHPVワクチンには「サーバリックス(2価ワクチン)」「ガーダシル(4価ワクチン)」「シルガード(9価ワクチン)」の3種類があり、それぞれ次のHPVの感染を防ぐ効果があるとされています。
この3種類のHPVワクチンのうち、現在(2022年9月末時点)、日本で定期接種の対象となっている(公費で接種を受けられる)ワクチンは、「サーバリックス(2価ワクチン)」と「ガーダシル(4価ワクチン)」です。なお、「シルガード(9価ワクチン)」は現在定期接種の対象ワクチンではなく、今後定期接種の対象とするかどうか専門家による検討が行われているところなので、受ける場合は全額自己負担の「任意接種」となります。
HPVワクチン接種の効果と対象年齢は?
HPVワクチンはHPVの感染をあらかじめ防ぐためのワクチンであり、すでに感染しているHPVを排除するものではありません。HPVは一度でも性的接触の経験があれば誰でも感染する可能性があるため、将来の子宮頸がんを予防するには性的な接触を経験する前にHPVワクチンを接種することが望ましいとされています。
日本では、小学校6年生から高校1年生相当の女性が定期接種の対象となっており、「サーバリックス(2価ワクチン)」か「ガーダシル(4価ワクチン)」のどちらかを公費で接種することができます。
子宮頸がんは、まずHPV感染を防ぐワクチンによって「1次予防」ができ、さらに20歳になったら2年に1回子宮頸がん検診を受けることで早期発見・早期治療という「2次予防」も可能な、「もっとも予防しやすいがん」といわれています。
HPVワクチンの積極的勧奨が再開された経緯について
HPVワクチンは、水痘(水ぼうそう)や日本脳炎、ロタウイルスなどと同じ「予防接種法に基づく定期接種」のワクチンです。日本では2013年の4月から定期接種の対象になりましたが、接種後に多様な症状の報告があり、それに対する適切な情報提供ができない状況にあったことから、2013年〜2021年までの間は「積極的勧奨(個別に接種を勧める内容の文書をお送りすること)」が一時的に控えられていました(定期接種の対象から外れたことはありません)。
その後、専門家による持続的な議論や国内外のさまざまな研究結果からHPVワクチンの有効性と安全性が証明されたこと、接種および接種後の医療体制の整備が行われたことから、2021年11月の専門家会議で「HPVワクチン接種のメリットが副反応のデメリットを上回る」と判断。2022年4月からは対象年齢12〜16歳の女性のいる家庭に個別にワクチン接種の案内をするなどの「積極的勧奨」が再開されることになりました。
また、積極的勧奨が控えられていた期間に接種対象年齢だった1997年4月2日~2006年4月1日生まれの女性のなかでHPVワクチン接種を逃した人にも、あらためて公費での接種の機会が提供されています。
接種対象年齢前後の女の子がいる家庭も、まだまだ先の家庭も、詳細については厚生労働省発表の資料などをよく読み、かかりつけ医がいればその意見も交え、この機会に子宮頸がんやHPVワクチンについて考えてみてはいかがでしょうか。