健康保険や厚生年金などの支払いを免除してもらう|産休・育休中の社会保険料の免除
働くママ、パパの産前産後休業・育児休業中に健康保険料や年金保険料などが免除される制度について、わかりやすく紹介します。
- <この記事のポイント>
- ◇産休中・育休中は毎月の給与から天引きされている社会保険料が免除されます。
- ◇個人・フリーランス・農業従事者などは産前産後期間の国民年金保険料が免除されます。
- ◇支払いの免除には、各自、会社や組合、役所への届け出が必要です。
- ◇2024年1月から個人・フリーランス・農業従事者などは産前産後期間の国民健康保険料が免除されます(2024年2月5日追記)。
産前産後休業・育児休業等期間中は社会保険料の支払いが免除されます
会社や団体の従業員、職員として働いている人は、毎月の給与から社会保険料が差し引かれています。
給与から天引きされている社会保険料には健康保険料、厚生年金保険料、介護保険料、雇用保険料などがありますが、このうち健康保険料と厚生年金保険料、介護保険料については、産前産後休業(以下「産休」)中、育児休業(以下「育休」)中の支払いが免除されます。
適用される法律|健康保険法第159条、厚生年金保険法第81条ほか
産休・育休中の社会保険料免除に関する制度や法律は、時代の流れに応じて適宜改正されています。
最初に社会保険料の免除が始まったのはすべての事業所で育児休業が義務化された1995年の4月。当初は育休中のみが対象でしたが、2014年4月からは産休中も対象になりました(産休・育休の定義については下で説明します)。
今回紹介するのは、育児・介護休業法の改正にともない、健康保険法や厚生年金保険法などで社会保険料免除の要件が変更された2022年10月1日以降の最新制度で、以下の法律が適用されています。
◇健康保険法第159条
◇厚生年金保険法第81条
◇国民年金法第88条
◇地方公務員等共済組合法第114条
◇育児・介護休業法第5条〜9条
◇全世代対応型の持続可能な社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律(令和5年法律第31号)
初めて産休・育休を取得する人も、2度目3度目の人も、情報をアップデートしておきましょう。
制度を利用できる対象者・対象期間
ここからは産休・育休中の社会保険料免除制度の対象者や対象期間について解説します。会社や団体で働く無期雇用労働者(正社員)や有期雇用労働者(契約社員やパート等)だけでなく、公務員の共済掛金、自営業やフリーランスとして働く人の国民年金保険料、国民健康保険料の免除についても、あわせて紹介します。
会社や団体で働く無期雇用労働者(正社員)の場合
社会保険料免除の対象となるのは、産休・育休を取得する、すべての働くママとパパです。
産休・育休中に社会保険料の支払いが免除される期間は以下のとおりです。
◇産前産後休業期間
出産予定日を含む産前6週間(多胎妊娠の場合14週間)から産後8週間のうち、妊娠または出産を理由として被保険者が就労しなかった期間
◇育児休業期間
育児休業を開始した月から、終了した日の翌日が含まれる月の前月までの期間
または育児休業の開始日から終了日の翌日までが同月内、かつ合計14日以上の育休を取得した当該月
産休・育休ともに、月の途中に休業が始まったときはその月から保険料が免除され、休業を終了するときは終了日の翌日の月から保険料の支払いが始まります。
かんたんにいうと、「月末に産休・育休を取得している場合、または同月内に14日以上の育休を開始・終了した場合は、当該月の保険料が免除になる」ということになります。
会社や団体で働く有期雇用労働者(契約社員、パート、アルバイトなど)の場合
契約社員やパート、アルバイトなど、期間に定めのある雇用契約で働く「有期雇用労働者」も、産休中に労働契約が満了することが明らかでない場合は産休を取ることができ、同様に子が1歳6カ月に達する日までに労働契約が満了することが明らかでない場合は育休を取得することもできます(※)。
さらに、1週の所定労働時間が20時間以上、月額賃金8.8万円以上など一定の要件を満たして社会保険に加入している有期雇用労働者であれば、もちろん産休・育休中の社会保険料が免除されます。
※雇用期間が1年未満の労働者、1週間の所定労働日数が2日以下の労働者など労使協定の締結により適用除外となることもあります。
なお、産休・育休中に社会保険料の支払いが免除される期間は、正社員の場合と同じです。
公務員の場合
国家公務員、地方公務員、私立学校の教職員などはそれぞれの共済組合に加入し、厚生年金や健康保険などの掛金を支払っています。公務員(共済組合の組合員)が産休や育休を取得した場合は、休業期間中の「共済掛金」が免除されます。
免除される期間は、上で紹介した社会保険料免除の適用期間と同様です。
自営業やフリーランスの場合
自営業者、個人事業主、フリーランス、農業や漁業の従事者、家族従業者、パート・アルバイトなどで勤務先の社会保険に加入していない人、学生、無職の人、およびそれらの配偶者で扶養に入っていない人など、「国民年金第1号被保険者」の人は、産前産後期間の「国民年金保険料」の支払いが免除されます。
◇国民年金の免除期間
出産予定日または出産日がある月の前月から4カ月間
(多胎妊娠の場合は出産予定日または出産日の3カ月前の月から6カ月間)
2024年1月から、自営業者、個人事業主、フリーランスなど、「国民健康保険被保険者」の人は、産前産後期間の国民健康保険料が免除されるようになりました。
◇免除される期間
国民年金の免除期間と同様
◇対象者
2023年11月1日以降に出産した方、または出産予定の方
◇免除対象となる保険料
2024年1月以降の分
※2023年11月に出産した場合は2024年1月分の保険料が、2023年12月に出産した場合は2024年1月分と2月分の保険料が免除されます。 2024年1月より前の期間については免除の対象とはなりません。
制度の特徴|支払い免除期間も保険や年金は継続
産休や育休で社会保険料の支払いを免除されている期間中も、健康保険は従来どおり適用されます。
療養費や高額療養費制度、傷病手当金など、健康保険による公的補助も、保険料を支払っているときと同じように利用することができます。
また年金についても、産休や育休中の保険料免除期間は「未納期間」ではなく保険料が支払われた期間として扱われるため、「育休を取った分、将来の年金額が減る」ということはありません。
制度を利用する際の注意ポイント
育休は原則1歳に満たない子を養育するための休業ですが、「パパママ育休プラス(両親ともに育児休業する場合の特例)」の要件を満たせば1歳2カ月まで、また1歳に達した時点で保育所に入所できないなど特別な理由がある場合は1歳6カ月、最長2歳まで育休を延長することができ、その間のママやパパの社会保険料が免除されます。
また、2022年10月1日から施行された「産後パパ育休(出生時育児休業)」では、子の出生後8週間以内に通算4週間(あらかじめ申し出れば2回に分けて取得することも可能)の育休を取ることができ、その期間に応じてパパの社会保険料が免除されます。
画像出典:改正後の働き方・休み方のイメージ(例)|厚生労働省サイト
なお、会社の福利厚生制度などで2歳以上の育児休業が認められているケースでは、法律上満3歳までは「育児休業に準ずる休業期間」として扱われ、社会保険料免除の規定が適用されることがあるので、会社の制度を調べてみましょう。
制度を利用するための手続き|各自で申し出・届け出の必要あり
社会保険料を免除してもらうための手続きについて紹介します。
会社や団体で働く無期雇用労働者(正社員)、有期雇用労働者(契約社員、パート等)の場合
社会保険料免除の申請は、被保険者(産休・育休を取得する本人)ではなく、事業主(会社や団体)が日本年金機構に対して行います。
被保険者は産休・育休を取得する期間などの希望が決まったら勤務先の担当窓口に申し出、所定の申請書類等があれば提出します。それを受けて、事業主が日本年金機構に「産前産後休業取得者申出書」や「育児休業等取得者申出書」を提出する、という流れが一般的です。
また、以下の場合は、社会保険料の免除期間も変わり、事業主が延長や終了の手続きする必要があるため、予定が変わりそうなときは早めに勤務先に連絡をするようにしましょう。
◇出産予定日と実際の出産日がずれて産休期間が変わる場合
◇届け出ていた育休期間より早く職場復帰する場合
◇育休を延長する場合
公務員の場合
共済掛金の免除には、産休・育休を取得する組合員本人からそれぞれの共済組合への申請が必要です。
個人・フリーランスの場合
産前産後期間の国民年金保険料、国民健康保険料の免除は自動的に適用される制度ではなく、届け出をする必要があります。申請書や必要書類を確認のうえ、住民登録をしている市区町村役場の国民年金担当窓口あてに提出しましょう。
なお、国民年金保険料免除が適用されるのは産前産後の期間のみで、育児期間中には適用されません。
おしえて!FAQ
社会保険料免除制度について、よくある問い合わせをQ&A方式で紹介します。
Q1 ボーナス月に産休・育休を取っている場合、ボーナスから引かれる分の社会保険料はどうなるのでしょうか?
A ボーナスにかかる社会保険料も免除されます。
給与以外のボーナス支給月に産休・育休を取得している場合、賞与や期末手当などに別途でかかる社会保険料も免除されます。ただし免除の対象となるのは、ボーナス支給月の末日を含む連続した1カ月以上の産休・育休を取得した場合のみなので注意が必要です。
Q2 産休の一部に有給休暇を使いました。社会保険料は免除の対象になりますか?
A 対象期間内であれば免除されます。
◇例
出産予定日/10月10日
産前休業開始可能日(出産予定日の6週間前)/8月30日から
このケースで8月30日、31日に有給休暇を使ったとしても、規定どおり8月分の社会保険料から免除になります。
ただしこの2日分は有給なので、出産のために会社を休み、その間に給与の支払いを受けなかった場合に支給される「出産手当金」の対象にはなりません。なお、支払われた給与が出産手当金より少ない場合には、差額が支給されます。
Q3 産休に入ったのに、その月の給与明細で社会保険料が天引きされています。会社の間違いでしょうか?
A 社会保険料が給与に反映されるのは多くが翌月です。会社に確認しましょう。
多くの企業が、社会保険料を翌月に徴収しています。
たとえば上の「Q2」の例では8月分の社会保険料から支払いが免除されますが、8月にもらう給与明細では、社会保険料がしっかり天引きされます。なぜなら8月に天引きされているのは7月分の社会保険料だからです。8月分の社会保険料が給与明細に反映されるのは9月なので、この場合9月の給与明細からは社会保険料が天引きされなくなるはずです。とはいえミスの可能性もあるので気になる場合は一度会社の担当窓口に確認してみましょう。
Q4 出産日が予定より後ろにずれた場合、産後休業も社会保険料免除期間も短くなるのでしょうか?
A 短くはなりません。実際の出産日が起算日となり、8週間の産後休業および社会保険料免除はそのまま適用されます。
また、出産日が遅れたことで産前休業が6週を超えたとしても、出産予定日から出産当日までの期間は産前休業扱いとなり、社会保険料免除の対象となります。
産前産後の休業は労働基準法第65条に定められた母性保護のための規定で、「6週間(多胎妊娠の場合は14週間)以内に出産予定の女性が休業を請求した場合、および産後8週間は女性を就業させてはならない」と決められています。
このうち産前休業は申告制なので本人の体調がよく出産ぎりぎりまで働きたいと希望する場合は取らなくてもさしつかえありませんが、産後休業は「本人の意思に関わらず働いてはいけない」とされる期間です。
そのため出産日が予定より遅れたとしても産後休業期間が短くなるということはなく、社会保険料免除制度も産後8週間まで適用されます。
ただし産後6週間を経過して体調に問題がなく本人が希望した場合は、医師の許可があれば職場に復帰することも可能なため、こうしたケースでは社会保険料の免除も終了します。
出産予定日より早く産まれた場合も考え方は同じで、実際の出産日を起算日としてそこから8週間が産後休業期間および社会保険料免除期間となります。
産休・育休中の社会保険料免除制度の関連情報
この制度についてもっと詳しく知りたい場合は、以下の情報も確認してみてください。
厚生労働省
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育児・介護休業法のあらまし(育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律)
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日本年金機構
※本コラムは、令和6年1月1日時点の法律に基づいています。お手続きなどの詳細につきましては、会社のご担当者様にご確認ください。
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