不利益取り扱いの禁止とハラスメントの防止|働くママパパの権利を守る法律
法律で定められた「妊娠、出産、産休・育休取得などに対する不利益取り扱い禁止」「マタニティハラスメントの防止義務」について紹介します。
- <この記事のポイント>
- ◇妊娠や出産、育児休業などを理由に解雇や降格などを行う「不利益取り扱い」は違法です。
- ◇事業主には「マタニティハラスメント」防止のための措置を講じる義務があります。
- ◇自分の状況や希望を明確に伝え、制度や措置の利用を求めましょう。
妊娠・出産・産休・育休に関する不利益取り扱いは法律で禁止されています
働きながら妊娠・出産を迎え、職場で上司や同僚からのハラスメントを受けることなく産前産後休業(以下「産休」)や育児休業(以下「育休」)を取得する権利は、おもに2つの法律で守られています。
◇男女雇用機会均等法(※1) 第9条
◇育児・介護休業法(※2) 第10条 など
妊娠・出産したこと、妊娠にともなう体調不良や妊婦健診のために休みを取ること、産休・育休取得の申し出や実際に取得したことなどを理由(契機)に、解雇、降格、減給といった不利益な取り扱いをすることは違法です。
【妊娠、出産、産休・育休取得などに関するハラスメントの防止義務】
◇男女雇用機会均等法 第11条
◇育児・介護休業法 第25条 など
妊娠・出産したこと、妊娠にともなう体調不良や妊婦健診のため休みを取ること、産休・育休取得の申し出や実際に取得したことなどに対する上司や同僚の言動によって、労働者の就業環境を害すること(通称「マタニティハラスメント」)がないよう措置を講じる義務が定められています。
※1 正式名称:「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」
※2 正式名称:「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」
法律適用の対象者|正社員、パート、契約社員、派遣などすべての労働者
「妊娠・出産、産休・育休取得を理由(契機)とした不利益取扱いの禁止」および「就業環境を害する言動(ハラスメント)の防止義務」について定めた法律は、正社員、正職員、公務員だけでなく、パート、アルバイト、契約社員、派遣労働者など、すべての雇用形態で働く労働者に適用されます(※)。
もちろん育児休業などを取得しようとする男性労働者にも適用され、事業主は男性労働者へのハラスメント(通称「パタニティハラスメント」)に関しても防止措置を講じる義務があります。
※期間に定めのある雇用契約で働く「有期雇用労働者」の産休、育休取得について
産休予定期間中に労働契約が満了することが明らかでない場合は産休を取ることができます。
また、子が1歳6か月に達する日までに労働契約が満了することが明らかでない場合は育休を取得することもできます。ただし法に基づいた労使協定の締結により、雇用期間が1年未満の労働者、1週間の所定労働日数が2日以下の労働者などは育休の適用除外となることもあります。
「不利益取り扱い」とは|妊娠や出産を理由とした解雇や降格など
「不利益取り扱い」の具体的な事象について紹介します。
「不利益取り扱い」の具体的なケース
「妊娠・出産、産休・育休取得を理由(契機)とした不利益取り扱い」における「理由(契機)」とは、たとえば次のようなものです。
◇妊娠したこと
◇出産したこと
◇妊婦健診のため仕事を休んだ
◇つわりや切迫流産などで労働能力が低下した(※)
◇産休を取った
◇育休を取った
◇時間外労働や休日労働、深夜業を断る
◇短時間勤務を申し出る など
※「妊娠中及び出産後の健康管理に関する措置(母性健康管理措置)」を申し出たこと、またその措置を受けたことを含む
違法とみなされるケース
上で挙げたような内容を理由(契機)に、次のような取り扱いをおこなうことは違法とされています。
◇解雇された
◇契約が更新されなかった(雇い止め)
◇契約更新回数が引き下げられた
◇退職を強要された
◇正社員からパート等への契約内容変更の強要
◇降格された
◇減給または賞与などで不利益な算定をされた
◇不利益な配置変更や自宅待機を命じられた
◇本来の仕事から排除するなど就業環境を害された
なお、女性労働者を妊娠中または産後1年以内に解雇することは、事業主が「妊娠、出産、産休・育休を取得したことなどによる解雇でないこと」を証明しない限り無効とされています。
(出典:労働者に対する性別を理由とする差別の禁止等に関する規定に定める事項に関し、事業主が適切に対処するための指針|厚生労働省サイト)
「ハラスメント」とは|妊産婦の制度利用や就業環境を害する言動
職場における「妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント」には、「制度等の利用への嫌がらせ型」と「状態への嫌がらせ型」があり、いずれに対しても防止措置を講じる義務があると定められています。
制度等の利用への嫌がらせ
妊娠中、出産後、育児中の労働者には、母子の健康や育児に関連したさまざまな制度や措置が設けられています。「制度等への嫌がらせ」とは、こうした制度の利用を申し出たこと、または実際に利用したことに関する上司や同僚からの言動で就業環境が害されることを指します。具体的には以下のようなものが挙げられます。
◇産休、育休の取得を相談したところ、「長く休むなら辞めてもらう」と言われた
◇時間外労働の免除について相談したところ、「残業できないならパートに変更だ」と言われた
上司や同僚が制度の利用請求や利用を阻害する例
◇育休の取得を相談したところ、「男のくせに育休なんてありえない」「長い育休は周りに迷惑だ」などと言われ、取得をあきらめざるを得ない状況になっている
◇つわりで医師からの指導を受けたのに、「つわり程度で休みたいなんて甘えだ」と言われ、母性健康管理措置を受けられない
上司や同僚が制度利用に対し嫌がらせをする例
◇所定外労働の制限を利用していたところ、「重要な仕事は任せられない」と言われ、必要な会議から外されるなど就業上看過できない支障がある
◇時短勤務の制度を利用していたところ、「自分だけ楽をしてずるい」「私は利用しなかった」などと言われ、業務上必要な情報が与えられないなど能力の発揮や継続就業に重大な悪影響がある
状態への嫌がらせ
「状態への嫌がらせ」とは、女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、また妊娠や出産に起因する症状(つわり、切迫流産、産後の回復不全など)によって労働量が低下したことに対し、ネガティブな言動をして就業環境を害することを指します。具体的には以下のようなものが挙げられます。
◇妊娠を報告したところ、「他の人を雇うので早めに辞めてほしい」と言われた
妊娠や出産をしたことに対して嫌がらせをする例
◇「妊婦/小さな子のいる母親はいつ休むかわからないからたいした仕事は任せられない」と繰り返し/継続的に言われ、就業に看過できない支障がある
(出典:事業主が職場における妊娠、出産等に関する言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針|厚生労働省サイト)
妊娠、出産、育児関連の制度を利用する際の注意ポイント
働きながら妊娠・出産に臨み、母子の健康を守る制度や育児の時間を確保するための制度をスムーズに利用するためには、次のようなポイントに留意することも大切です。
妊娠中や産前産後、産休・育休中に利用できる制度や措置を知っておきましょう。
たとえば、母子の健康に関して医師から指導があり、本人が申請した場合、事業主は必要な措置を講じる義務があります(男女雇用機会均等法・第13条「母性健康管理措置」)。
また産前休業は6週間以内に出産予定の妊婦が請求すれば取れる休業なのに対し、産後8週間(医師の許可があれば6週間)の休業は「本人の意思にかかわらず就業させてはならない」と法律で定められた休業です(労働基準法・第65条)。
妊娠・出産・育児に関わるこうした制度や措置は、勤務先の就業規則に規定がない、またはこれまでに利用した人がいない場合でも、法律を根拠に請求することができます。自分の雇用形態でどのような制度や措置を利用できるかわからない場合、お住まいの都道府県労働局雇用環境・均等部(室)に問い合わせてみるのもひとつの方法です。
どのような制度や措置を利用したいのか、明確に伝えましょう。
妊娠中の体調や産後の回復などは個人差が大きいため、「妊産婦だから」という理由のみで上司や同僚に一方的な配慮を求めても、適切な対応は難しいでしょう。
「医師から○○と指導されている」「通勤ラッシュでつわりが悪化するので時差通勤を認めてほしい」など、自分の状況や希望をなるべく具体的に伝え、制度や措置の利用を求めましょう。
また産前休業や育休をどれくらい取得するかは社会保険料免除などの手続きにも関わるため、休業開始日や職場復帰予定日などについても、あらかじめ明確に伝えておく必要があります。
周囲から理解を得られるよう努めることも大切です。
働きながら妊娠、出産、育児に臨むママパパがさまざまな制度や措置を利用することは法律で認められた権利ですが、事業主側の差配が行き届かず、休業や休憩、時短勤務が上司や同僚の仕事に影響を及ぼす場合もあるでしょう。
状況の連絡や業務の引き継ぎなどに関しては日頃から上司や同僚との連携をはかり、協力への感謝も忘れず、自分の妊娠、出産、育児を応援してくれる仲間を増やしていくことも大切です。
おしえて!FAQ
妊娠・出産・産休・育休に関する不利益の取り扱いやハラスメントについて、多く寄せられている疑問点と回答について紹介します。
Q1 「職場におけるマタニティハラスメント」の「職場」とは仕事場だけを指すのでしょうか?
A いいえ。業務での移動中や出張先、取引先との打ち合わせや接待の席など、「通常就業している仕事場」以外の場所であっても、業務を遂行する場所であれば「職場」に含まれます。
勤務時間外の「懇親の場」、通勤中や社員寮(社宅)なども、実質的に職務の延長と考えられるものは「職場」に該当しますが、その判断は職務との関連性などを考慮し個別に行う必要があるとされています。
Q2 妊娠、出産などを理由として上司や同僚から不利益取り扱い、ハラスメントを受けた場合、どこに相談すればいいでしょうか?
A まずは会社の人事労務に関する相談担当者、男女雇用機会均等推進者、労働組合などに相談しましょう。会社にそのような体制がない場合、また相談しても対応してもらえなかった場合は、事業所の所在地を管轄する都道府県労働局雇用環境・均等部(均等室)に相談しましょう。
適用される法律|男女雇用機会均等法、育児・介護休業法
今回紹介した「妊娠・出産などを理由とした不利益取り扱いの禁止、マタハラ防止義務」について定められたおもな法律、および指針は以下のとおりです。
- ◇男女雇用機会均等法
- 正式名称:雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律
- (婚姻、妊娠、出産等を理由とする不利益取扱いの禁止等)第9条
- (職場における妊娠、出産等に関する言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置等)第11条
- ◇「労働者に対する性別を理由とする差別の禁止等に関する規定に定める事項に関し、事業主が適切に対処するための指針」
- ◇育児・介護休業法
- 正式名称:「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」
- (不利益取扱いの禁止)第10条
- (職場における育児休業等に関する言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置等)第25条
- ◇「事業主が職場における妊娠、出産等に関する言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」
「妊娠・出産などを理由とした不利益取り扱いの禁止、マタハラ防止義務」の関連情報
この法律や制度についてもっと詳しく知りたい場合は、以下の情報も確認してみてください。
◇厚生労働省
「妊娠したから解雇」は違法です
職場におけるハラスメントの防止のために(セクシュアルハラスメント/妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント/パワーハラスメント)
ハラスメント裁判事例、他社の取組などハラスメント対策の総合情報サイト
あかるい職場応援団
※本コラムは、令和5年4月1日時点の法律に基づいています。お手続きなどの詳細につきましては、会社のご担当者様にご確認ください。
記事の一覧へ |