分娩に関連して発症した重度脳性まひの補償|産科医療補償制度
お産の現場で予期せぬことが起こり、重い脳性まひになってしまったケースに適用される「産科医療補償制度」について詳しく紹介します。
- <この記事のポイント>
- ◇出産に関連して重い脳性まひが生じた場合「産科医療補償制度」の対象となります。
- ◇2022年1月より補償基準が変更され「在胎週数28週以上での出生」となっています。
- ◇補償額は準備一時金と補償分割金を合わせ総額3000万円です。
出産にともなって重い脳性まひを発症した場合、経済的負担を補償する制度があります
「産科医療補償制度」は、より安心して産科医療を受けるための環境整備の一環として、2009年1月に創設された制度です。お産のとき、なんらかの理由によって重度脳性まひになった子どもとその家族の経済的負担をすみやかに補償するとともに、脳性まひ発症の原因分析や再発防止に取り組み、産科医療の質を向上させることを目的としています。
産科医療補償制度は民間の保険を活用した制度で、分娩機関に過失がなくても補償金が支払われる「無過失補償制度」です。運営は「公益財団法人 日本医療機能評価機構」がおこなっています。
掛け金はこの制度に加入している分娩機関(病院・診療所・助産所)が支払うため、妊婦本人が制度に加入したり、掛け金を支払ったりする必要はありません。
制度の対象と補償内容|加入分娩機関で出生し対象基準を満たした場合
産科医療補償制度の対象となる医療機関と補償基準、補償内容は以下のとおりです。
補償の対象となる医療機関
産科医療補償制度の対象となるのは、この制度に加入している分娩機関(病院・診療所・助産所)が管理する出生児です。加入分娩機関については、以下のサイトから検索できます。
なお、全国の分娩機関のうち病院・診療所の99.9パーセント、助産所の100パーセントが産科医療補償制度に加入しています(※2023年5月8日現在)。
加入状況|公益財団法人 日本医療機能評価機構 産科医療補償制度
補償の対象となる基準
2015年以降に、この制度の加入分娩機関で出生し、以下の(1)〜(3)をすべて満たす場合、補償の対象となります。
なお、【2015年1月1日から2021年12月31日までに出生した場合】と【2022年1月1日以降に出生した場合】で一部対象基準が異なります。
◇2015年1月1日から2021年12月31日までに出生した場合
(1)在胎週数(妊娠週数)32週以上で出生体重1400グラム以上、または在胎週数28週以上で低酸素状況を示す所定の要件を満たして出生したこと。
(2)先天性や新生児期の要因によらない脳性まひであること(※)。
(3)身体障害者手帳1・2級相当の脳性まひであること。
◇2022年1月1日以降に出生した場合
(1)在胎週数(妊娠週数)28週以上で出生したこと。
(2)先天性や新生児期の要因によらない脳性まひであること(※)。
(3)身体障害者手帳1・2級相当の脳性まひであること。
※次のような原因で発症した脳性まひは補償対象外とされています。また、生後6か月未満で亡くなった場合も補償対象となりません。
◇遺伝子異常など先天性の要因
◇分娩後の感染症など新生児期の要因
◇妊娠中・分娩中における妊産婦の故意または重大な過失 など
補償内容と補償金額
産科医療補償制度の補償対象と認定された場合、総額3000万円の補償金が支払われます。
【内訳】
◇準備一時金(看護・介護をおこなうための基盤整備のための資金)600万円
◇補償分割金(看護・介護費用として毎年定期的に支給)総額2400万円(子どもが19歳になるまで毎年1回|120万円を20回)
■産科医療補償制度の仕組み
画像出典:産科医療補償制度の仕組み|厚生労働省
制度の申請期間と申請者|満5歳の誕生日までに保護者が申請
補償申請できる期間は「生後満1歳の誕生日から満5歳の誕生日」までです。ただし、極めて重症で診断可能と判断された場合は生後6か月から申請することができます。
なお、補償を申請できるのは脳性まひの子どもの保護者(親権者または未成年後見人)です。この制度の補償金の受給権者は子ども本人であり、その保護者(親権者または未成年後見人)は法定代理人として補償請求をおこなうことになります。
制度を利用する際の注意ポイント|分娩後5年間は「登録証」を保管
産科医療補償制度に加入している分娩機関(病院・診療所・助産所)では、院内に「産科医療補償制度加入機関」であることを示すマークが掲示されています。利用する分娩機関がこの制度に加入しているかどうか必ず確認しましょう。
この制度に加入している分娩機関では、妊産婦に「産科医療補償制度 登録証」を交付します。必要事項を記入し、出産後5年間は大切に保管しましょう。登録証の交付以降に転院した場合は、転院後の分娩機関に登録証を提示し、再交付を受けてください。
制度についての問い合わせ、手続き|詳細は産科医療補償制度ホームページへ
補償の申請をするためには、専門の医師による診断書(産科医療補償制度専用)を取得して、補償認定依頼書などの必要書類と合わせてお産をした分娩機関に提出し、補償の認定を依頼します。
申請手続きに関する詳細、必要書類などについては、この制度の運営組織である「公益財団法人 日本医療機能評価機構」のホームページで確認するか、産科医療補償制度専用コールセンターもしくはお産した分娩機関にお問い合わせください。
◇公益財団法人 日本医療機能評価機構|産科医療補償制度ホームページ
◇産科医療補償制度専用コールセンター
電話番号:0120-330-6370
受付時間:9:00~17:00(土日祝日・年末年始を除く)
おしえて!FAQ
産科医療補償制度について、多く寄せられている疑問点と回答について紹介します。
Q1 請求手続きが遅くなると、その分補償分割金の額は減るのでしょうか?
A いいえ。準備一時金600万円の支払いに合わせて、そのときまでに経過した回数分の補償分割金が一緒に支払われるため補償の総額が変わることはありません。総額で3000万円が支払われます。
※【例】子どもが2歳のときに補償対象となり補償金が支払われる場合
<準備一時金600万円>+<(0歳時)補償分割金120万円>+<(1歳時)補償分割金120万円>+<(2歳時)補償分割金120万円>=960万円
以降3歳時から19歳時まで毎年の補償分割金120万円×17回=2040万円
計3000万円
Q2 里帰り出産で万が一のことが起きた場合、どこが補償主体となりますか?
A 妊娠期に検診を受けていた医療機関と出産する医療機関が異なる「里帰り出産(里帰り分娩)」の場合、実際に分娩した機関(病院・診療所・助産所)が補償契約の主体となります。
「産科医療補償制度」の関連情報
産科医療補償制度は、国の法律で定められた補償制度ではありませんが、妊娠・出産に関係する大切な制度のひとつとして紹介しています。
この制度についてもっと詳しく知りたい場合は、以下の情報を確認してください。
公益財団法人 日本医療機能評価機構|産科医療補償制度ホームページ
※「公益財団法人 日本医療機能評価機構」は、国民の健康と福祉の向上に寄与することを目的とし、中立的・科学的な第三者機関として医療の質の向上と信頼できる医療の確保に関する事業を行う公益財団法人です。(引用元:公益財団法人 日本医療機能評価機構|「設立趣旨」)
※本コラムは、令和5年4月1日時点の法律に基づいています。お手続きなどの詳細につきましては、会社のご担当者様にご確認ください。
記事の一覧へ |